どうしても借金が返せず、どうしようもなくなってしまった場合は債務整理の中でも自己破産をすることで苦境を脱出することが可能です。
しかし債権者に自己破産をされると、貸金業者が大きな損をしてしまうため、自己破産にはそれ相応の「デメリット」があります。
この記事では、自己破産をすることによってブラックリストに載ってしまうと、どういった不利益があるのかを説明していきます。また財産の強制処分や公的資格の停止といった、自己破産のデメリットについても詳しく解説します。
自己破産のデメリットはブラックリストに登録される
自己破産の大きなデメリットは、「ブラックリスト」に載ってしまうことです。ブラックリストというのは俗称で、「個人信用情報機関」に、事故情報が登録されてしまうことを意味しています。
日本の個人信用情報機関には、「全国銀行個人信用情報センター(KSC)」「株式会社シー・アイ・シー(CIC)」「株式会社日本信用情報機構(JICC)」という3つがありますが、自己破産をすると、そのすべてに名前が載ってしまいます。
ブラックリストに登録されることで人生にどう影響する?
ブラックリストに載ってしまうと、「社会的な信用」が失われます。そうなると、信用が必要な次のような行為をおこなうことができなくなります。
- 原則として信販会社や各種ローンで借入することができなくなる
- クレジットカードの利用ができなくなる
- 保証人になれなくなる
では、ブラックリストが人生に及ぼす影響について、詳しく見ていきましょう。
信販会社や各種ローンで借入することが基本的にできない

銀行や信販会社などのお金を貸してくれる機関は、お金を貸す前に個人信用情報機関に借り手の「信用情報」を照会します。
信用情報とは、クレジットやローンの契約や申し込みに関する情報のことで、客観的な取引事実を登録した個人の情報です。
https://www.cic.co.jp/confidence/index.html
自己破産者の場合、この照会時にブラックリストに載っていることが判明するため、銀行などは貸付を停止してしまいます。
自己破産者は通常の借り入れができないのはもちろん、「住宅ローン」「自動車ローン」といったローンを組むこともできなくなるため、かなり行動が制限されてしまいます。
ただし自己破産をしてから一定期間経つと、個人信用情報機関のブラックリストから名前を消してもらえます。
情報機関 | 利用している事が多い金融機関 | 事故情報が消えるまでの期間 |
---|---|---|
KSC | 銀行全般 | 10年程度 |
CIC | 地方銀行・クレジットカード会社・貸金業者 | 5年程度 |
JICC | クレジットカード会社・消費者金融 | 5年程度 |
このように自己破産から「10年」程度は借り入れ全般が制限されてしまいます。しかしブラックリストから消えた後は、ローンやキャッシングができるようになります。
ただし自己破産した時に利用していた金融機関には、個人信用情報機関とは別に事故情報が残されていることがあります。金融機関独自の事故情報があった場合、個人信用情報機関のブラックリストが抹消された後も、その金融グループで借り入れをするのは難しくなります。
なお、ブラックリストに載っている状態でも、お金を借りられる金融機関も一部存在しています。自己破産によって負債は消えているため、現在の「収入」さえちゃんとあれば、貸してもかまわないという判断のようです。
ETCカード・クレジットカードは利用できなくなる

ローンと同じ理由で、自己破産後5~10年程度は「クレジットカード」を使うことができなくなります。持っていたクレジットカードは、自己破産時に強制的に「解約」されますし、ブラックリストに載っていると、新規にカードを作ることもできません。
また、事故情報が消えた後でも、クレジットカードが作りにくくなるという問題もあります。ブラックリストに載っている期間、長期に渡ってクレジットカードを一切使っていない状態(スーパーホワイト)になるため、信用を重視するクレジットカード会社なら審査で落とされる可能性が高くなります。
また一般的に「ETCカード」はクレジットカードと紐づいて利用するもため、元となるクレジットカードが使えなくなると、同時にETCカードも利用できなくなります。
ただし、クレジットカードと関係なく使える「ETCパーソナルカード」というものもあります。ETCパーソナルカードを使えば、ブラックリストに載っている期間でも、ETCを利用できるようになります。ただし、ETCパーソナルカードを作るためには、一定額の保証金が必要になります。
ブラックリストに載ると保証人になることはできない
法律上は、自己破産者が保証人や連帯保証人になることは禁止されていません。しかし銀行などで保証人契約がなされる場合は、信用情報が照会されるため、ブラックリストに載っていると保証人になることを拒否されるのが一般的です。
自己破産したばかりで保証人になんてならないよ、と思われる方もいるかもしれませんが、子供の「奨学金」などにも保証人は必要になります。このように保証人になれないことで、困った事態に陥る可能性はあります。
生活必需品以外の価値がある財産は全て処分されてしまう
自己破産をする場合、すべての財産を現金化して債務の返済に使わなければいけません。ただし、法人ではなく個人が自己破産をする際は、「自由財産」の保持は認められています。
自由財産というのは、生きていくために最低限必要な財産や、処分費用の方が高くなってしまい現金化する価値が低いものなどが該当します。具体的には、次のようなものを指しています。
- 破産手続き開始よりも後に手に入れた財産(新得財産)
- 生活必需品(差押禁止財産)
- 99万円以下の現金
- 自由財産の拡張された財産(裁判所の判断で処分しなくてもすむもの)
- 破産管財人によって破産財団から放棄された財産(破産管財人の判断)
価値が「20万円以下」のものは処分しないですむ、というのが一般的なラインですが、裁判所の判断によって変わってきます。
また、自動車の場合は生活に必要なものということもあり、20万円を超える価値があっても自由財産とみなされることがあります。東京地方裁判所では、減価償却期間(普通自動車で6年)を過ぎた車は価値を0円として判断し、処分しないでよいという判例を出しています。
ただし、減価償却期間を過ぎていても、外車や高級車のような売却価値が高い自動車の場合は処分されていまいす。
携帯電話を変更・解約しないと行けないケースについて
「携帯電話」は、生活必需品とみなされるため、自己破産しても取り上げられることはありません。
ただし、携帯電話の利用料金を「滞納」している場合や、携帯電話本体の代金を「分割払い」にしていて、代金を払い終わっていない場合などは、携帯電話が解約になって使えなくなる可能性が高くなります。
また解約された場合、携帯電話を使うためには再契約する必要がありますが、ブラックリストに載っているために契約を拒否されてしまう可能性があります。
現在使用している預金口座を変更する必要があるケースも
預金口座がある銀行からもお金を借りている場合、その口座は、弁護士の「受任通知」届いた時点で「凍結」されてしまいます。受任通知というのは、弁護士が、自己破産手続きの依頼を受けたことを関係各所に伝えるものです。
自己破産をされてしまうと、債権を回収できなくなるため、銀行は債務者の口座を使えないように凍結して、口座に入っている預金で借金を相殺します。
口座が凍結されている間(1~3カ月程度)は、口座の利用がまったくできなくなるため、自己破産をする前に、次のようなことをやっておく必要があります。
- 凍結予定の口座の預金を引き出しておく
- 他の銀行に、凍結期間中に使える別の口座を作っておく
- 電気代などを引き落としにしている場合は、新しい口座に引きとし先を変えておく
- 給与の振り込み先になっているなら、新しい口座に振り込み先を変えておく
借金があっても銀行口座の開設はできますので、自己破産の手続きをするめる前に口座を作っておきましょう。
貯金残高が合計20万円を超える場合は換価処分の対象になる
これまでの判例では、「20万円以下」の貯金は自由財産であるとみなされています。逆に言えば、20万円を超える貯金は、すべて没収されてしまうということです。
この20万円というのは、1つの口座に入っている預金額ではなく、すべての口座の「合計額」ですので注意してください。
20万円を超える貯金があった場合、引き出しておくほうが得ということになりすが、自己破産手続き前の引き出しには注意が必要です。
自己破産時には、銀行口座の「利用履歴」を細かくチェックされるため、大金を引き出していると、隠し財産と見なされ、後で裁判所に取り上げられることもありえます。自己破産前の貯金引き出しで許されるのは、「生活費」程度だと考えておいてください。
士業や警備員などを含む一定の公的資格の取得が制限される
自己破産手続きを「開始」すると、一定の「公的資格」の利用が制限されます。制限されるのは、次のような資格です。
- 弁護士、公認会計士、司法書士などのいわゆる「士業」
- 警備員、探偵業、後見人、公証人などの信頼が必要な「仕事」や「役目」
- 原子力規制委員会や公安審査委員会など重要機関の「委員長」及び「委員」
- 日本銀行や地方公共団体金融機構などのお金を預かる組織の「役員」
ほかにも資格停止されるものは多くありますが、原則としてお金を預かったり、機密情報を知る機会がある仕事や役目が制限されてしまいます。ただし制限を受けるのは自己破産の手続き中だけで、自己破産が完了すれば、ふたたび資格を利用することができます。
また、公的資格のすべてが制限されるというわけではありません。たとえば学校の「教員」などは、自己破産手続き中でも仕事を続けることができます。
資格が制限される仕事に就いている場合は、自己破産ではなく、「個人再生」の利用も検討すべきでしょう。個人再生をする場合には、資格の制限はかかりません。
裁判所が移転許可するまでは住居を自由に移転できない

自己破産手続き中は、勝手に引っ越しをすることはできません。ただし、裁判所に移転の申込みをして、「許可」を得られれば引っ越しをすることができます。また、自己破産手続きの種類が同時廃止の場合は、移転制限はかからず、自由に移転できます。
また、この取り決めは、あくまで自己破産手続き中に債務者が逃げ出すのを防ぐためのものですので、自己破産が完了してしまえば、ふたたび自由に移転できるようになります。
また、自己破産手続き中は、「海外旅行(海外出張)」も制限されます。旅行前に裁判所の許可を得なければ、海外に行くことはできません。ただし、引っ越しの場合と同じく、同時廃止で自己破産する場合は、海外旅行の制限はありません。
家族や友人などの保証人・連帯保証人に対しては請求が続く
自己破産というのは「債務」がなるなるわけではない、ということには注意が必要です。自己破産をした本人の債務支払いの義務がなくなるだけであり、「保証人」や「連帯保証人」の債務支払い義務は消えません。
つまり、破産者の代わりに、保証人が債権者の取り立てを受けることになります。たとえば妻が保証人になっていた場合などは、片方が自己破産しただけでは状況は好転しません。
しかも自己破産した場合、保証人は債務の「一括返済」を求められます。現金が用意できなければ、家などの財産を処分して債務を返済しなくてはいけません。
保証人や連帯保証人にかかる負担が問題になるなら、自己破産ではなく「任意売却」を使って借金に対処するという方法もあります。任意売却なら、債務額を減らして自分の手で返済していけるため、保証人に迷惑をかけずにすみます。
国が管理・発行している官報に名前が記載されてしまう

日本には官報という国の新聞があり、国民は無料でネットから閲覧することができます。自己破産をすると、この官報に「名前」と「住所」が記載されてしまいます。しかもその記載を削除することは、どうやってもできません。
こう言うと、自己破産をすると友人や同僚にバレてしまう、と思われるかもしれませんが、通常はその心配は不要です。なぜなら、普通の人は官報をチェックしたりはしていないからです。
ただし、金融関係者や「闇金業者」は官報の自己破産者を調査しています。そのため、自己破産後に、闇金業者から連絡がきたりすることはありえます。
郵便物は管財人の管理下に置かれるので制限が掛かる
自己破産手続き中は、「郵便物」が破産管財人に転送されます。破産管財人にチェックされた後、破産者は郵便物を受け取ることができます。ただし、「宅配便」は転送対象ではないため、直接受け取ることができます。
郵便に制限がかかるのは、あくまで自己破産の手続きをしている本人だけであり、家族や同居人への郵便は問題なく受け取ることができます。つまり、差出人に家族の名前宛てに手紙を送ってもらい、自分が直接受け取るという方法もできなくはありません。
また自己破産を「同時廃止」でおこなう場合は、そもそも破産管財人がいないため、郵便物の転送は不要です。
自己破産のデメリットについてよくある質問
自己破産をおこなう際によくある、次のような質問について考えていきます。
- 自己破産が家族や同居人に及ぼす影響
- 自己破産後のカードでの支払いをどうすればよいか
では、自己破産でよくある疑問について、詳しく見ていきましょう。
自己破産をすると家族や同居人に影響はありますか?
原則として、自己破産でメリットやデメリットが発生するのは破産者本人のみです。家族や同居人の公的資格が制限されることはありませんし、郵便物なども普通に受け取れます。
ただし、家族や同居人が破産者の「保証人」になっている場合は、破産者の代わりに債務の返済をしなくてはいけません。
また、自己破産の手続きで、破産管財人と打ち合わせをしたり裁判所に行かなければなりませんが、行くのは破産者本人のみで、家族が同行する必要はありません。
自己破産をしても、家族名義の財産は処分対象になりません。しかし、たとえ名義は家族のものであっても、「支払い」は破産者が行っていたという財産があった場合は、破産者の資産であるとして処分されることはありえます。
また、直接的な影響はなくても、破産者の財産がなくなることによって、家族が困窮することは当然ありえます。
自己破産をした後のカードでの支払いはどうしたらいいですか?
自己破産をすると、すべての「クレジットカード」が強制解約になり、なおかつブラックリストに載るため新規にクレジットカードを作ることもできなくなります。
クレジットカードの支払いに頼って生活していた人は不便な思いをするでしょうが、その問題は「デビットカード」を使うことによって解消されます。デビットカードは「審査無し」で作れるカードですので、自己破産手続き中でも自己破産後でも、問題なく作成することができます。
デビットカードはネットショッピングもできますし、クレジットカードと同じような感覚で利用できます。
ただし、デビットカードには、次のような弱点もあるため、ブラックリストから抹消されたら、クレジットカードも作っておいたほうが便利です。
- 分割払いやリボ払いができない
- 利用ポイントを得にくい
- 銀行の口座残高以上の買い物はできない
- 付帯サービスの充実度が低い
とはいえ、ついお金を使いすぎてしまう、という人にとっては、口座残高以上の買い物ができないというのはデメリットではなくメリットになりますので、デビットカードだけで満足しておくという手も悪くはありません。